
棒状に成形された蛍光体の写真(左)、今回開発した超広帯域発光素子の構造の概略図(中央)、開発した素子と5 Wハロゲンランプ の発光している様子の比較(右)
産業技術総合研究所(産総研/東京都千代田区)は1月22日、小型ハロゲンランプをしのぐ明るさ(200mW以上)と1,000時間以上の長寿命を併せ持ち、近紫外(350nm)から近赤外(1200nm)まで超広帯域の光を発光できる小型発光素子を開発したと発表した。
今回開発した素子は、紫外LEDと、そのLEDの光で励起され、さまざまな波長の光を発する複数の蛍光体とを組み合わせて超広帯域の発光を得る方式の発光デバイス。「発光ダイオード(LED)型の小型超広帯域発光素子」、くわしくは「紫外LED励起型超広帯域発光素子」と呼ばれている。
実用化に適用できる明るさと安定性(寿命)を実現
産総研は、超広帯域の光を発光できる「紫外LED励起型超広帯域発光素子」の開発を主導し、2019年までに、世界で初めて近紫外から近赤外までの発光波長域を持つ素子を開発した。この素子は、省電力性・パルス点灯可能・小型・堅牢・長寿命・低発熱性などの特長があるが、一方で、ハロゲンランプを代替するには、明るさ(発光強度)が十分ではなかったため、製品化は難しかった。
そこで、今回、紫外LED励起型超広帯域発光素子の明るさの向上に取り組み、粉末状の蛍光体を成形するための「バインダー材料」や蛍光体層の物理的構造を改良することによって、実用製品に適用できる明るさ(発光強度)と安定性(寿命)を実現した。
この超広帯域発光素子はハロゲンランプに比較すると、省電力であり、熱線(中/遠赤外線)の発生もなく、小型で、耐衝撃性も高く、また、パルス点灯ができるなど、さまざまな優れた特性がある。このため、食品品質評価のためのポータブル分析機器の開発や小型光センサーの実現など、新しい次世代メンテナンスフリー光源としての活用が広く期待される。
産総研は、今後、さらなる発光強度向上や安定性の向上に向けた基礎研究を加速させるとともに、実用に向けたプロセス技術の開発を進めていく。また、連携パートナーを募り、量産技術の開発や適用製品開発についても推進する。
発光強度増大・長寿命化に向けた課題を解消
一般に普及している白色LEDで広く用いられているバインダー材料は、白色LEDの励起光源の波長(450nm前後の青色)に対する安定性は十分だが、極めて強い紫外線を照射すると、樹脂を構成する分子が変性し、成形物がヒビ割れたり褐色に変色したりする。このため、素子の発光強度増大や長寿命化にとって大きな障害となっていた。
今回、その問題を解消するため、バインダーの材料や構造の改変を行った。その結果、極めて強い紫外線照射によって発生する、バインダーと蛍光体の化学的・物理的変化を抑制でき、前述の通り、ランプとLEDの長所を併せ持つ新しい産業用光源となる素子を開発できた。これによって初めて製品に搭載できるようになり、実用化への道が開けたと言える。
なお、この研究開発は、産総研や物質・材料研究機構(NIMS/茨城県つくば市)、筑波大(茨城県つくば市)など5組織が連携し、新領域を開拓するための調査研究を支援する2019年度事業において、NIMSと連携して協力して実施した。